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『無月経を乗り越えて妊娠されたマラソンランナー その3』

ひどい月経痛に悩まされて受診した産婦人科では、「今の生活を続けていると妊娠は難しい」と言われた。競技を続けるべきか悩んだ。「中途半端な気持ちでやめてとは言えない。子どもはほしいけど、子どものために結婚したわけじゃない」。大学1年まで陸上選手だった清志さんは言った。

 それから約1年間、走ることだけに集中したが、結果は出せなかった。走ることがどんどん苦しくなっていった。

 「休んで妊活をしよう。今のうちに出産すれば東京五輪を目指せる」。17年3月に開かれる名古屋ウィメンズマラソンを区切りにすると決めた。ロンドン五輪を逃した因縁の大会だった。

自分の走り、いつか息子に見せたい

 女子マラソンの佐野(旧姓中里)麗美選手(29)は思うような走りができずに苦しんでいた。2017年3月の名古屋ウィメンズマラソンを区切りにし、妊活を始めることにした。

 2012年の同じ大会で、ロンドン五輪出場を逃していた。「悔しい思いをした大会でいい走りができたら」。米国で約1カ月半合宿したが、調子が戻らなかった。

 大会当日、2キロですでに苦しくなり、5キロ付近では体が右に傾いてフォームが乱れた。沿道から見守る夫清志さん(29)に「もう止まっていいよ」と言われたが、首を横に振り続けた。

 「応援してくれたチームや家族のためにもゴールしなきゃ」

 完走したものの、39位だった。引退へ気持ちが傾いたが、清志さんは「納得していないでしょ。出産後に復帰して頑張る姿を子どもに見せられたら、また違うマラソン人生になる」と励ました。

 約2カ月後、妊娠がわかった。

 無月経や卵巣囊腫(のうしゅ)を経験し、妊娠には時間がかかると思っていただけに、本当にうれしかった。出産後にマラソンに復帰し、助言を受けていた赤羽有紀子さん(38)にも報告した。

 出産2日前まで軽いジョギングを続けていたという赤羽さんに妊娠中のトレーニングについて尋ねると、「ウォーキングはいいけど、安定期までは無理しないで」「おなかが張ったら走らないと決めていた」と返ってきた。

 

佐野さんは毎日1時間ほどのウォーキングを続け、今年1月に麗旺(れお)くんを産んだ。3050グラムだった。「大型トラックにひかれるような痛み」に、「フルマラソンの方が楽だな」と思った。

 出産から1カ月ほどたつと、軽い筋力トレーニングを再開した。眠っている麗旺くんのそばで、腹筋や腕立て伏せ、スクワットなどを30~60分間続ける。約6キロまで体重が増えた麗旺くんを抱き、荷物も持って毎日1時間歩く。肺活量や脚力はまだだが、腹筋はだいぶ元に戻ってきたと実感する。

 所属していたニトリ(本社・札幌市)のチームは妊娠中に退部した。まだ競技復帰のめどは立たないが、自分らしい走りを息子にいつか見せることが目標だ。「このままでは終われない」

 

情報編:妊娠中の運動や産後のトレーニング、乏しい医学的データ

 国内では出産後に競技に復帰する女性アスリートはまだ少ない。

 連載に登場したマラソンの佐野(旧姓中里)麗美選手(29)の診療を担当した、東京大病院の女性診療科・産科の能瀬さやか医師(39)は「出産後に競技復帰を目指す女性アスリートは増えてきているが、妊娠期と出産後のトレーニングや体の変化に関する医学的データはほとんどない」という。

 能瀬さんらは今年1~2月、女性アスリート(約1100人)の妊娠と出産についてインターネット調査をした。

 調査によると、妊娠中の運動について、産婦人科医らに相談した人は41%、残りは大半が自己判断だった。出産後、競技復帰について産婦人科医らの指示を受けた人は9%で、55%は指示を受けずに復帰していた。出産から復帰までの期間は平均約2年だった。

 能瀬さんは「妊娠中の運動について、産婦人科医の指示を受けない人の多さに驚いた。切迫流産や早産、前置胎盤など、運動すべきでない妊婦もいる。必ず産婦人科医に確認してほしい」という。

 適切な指導方法作りを進めるため、東京大と早稲田大はスポーツ庁の委託を受け、女性アスリートの腹直筋(ふくちょくきん)の状態が妊娠によってどう変化するかを調べている。腹直筋は腹部を縦に走る筋肉だ。

 一方、妊産婦の骨盤ケアに詳しい「フィジオセンター」(東京都港区)の理学療法士、田舎中真由美(たやなかまゆみ)さん(44)は「出産後に間違ったトレーニングをする人が多い」という。体の回復に合わせた正しいやり方を指導している。

 田舎中さんによると、妊娠でおなかが大きくなることで、腹直筋が伸びて左右に割れる「腹直筋離開(りかい)」が起きる妊婦は多いという。膨らんだ腹部が出産後になかなか元に戻らない要因の一つだ。

 「おなかを引き締めようとして、腹直筋や骨盤底筋が回復する前に腹筋運動をするのは逆効果」と田舎中さん。また、子宮や膀胱(ぼうこう)などを支える骨盤底筋が緩んだ状態で腹圧をかけるような運動をすると、尿失禁や骨盤臓器脱も起こりやすくなるという。田舎中さんは「整形外科や女性外来などで医師や理学療法士に、体の回復具合を確認してもらってから運動してほしい」と話す。

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