先日から タバコと妊娠についてのお話を2回ほど
させていただいております。
特に男性
「女性は禁煙は必要だろう 男は妻が妊娠してからやめればいいや」
そんなくらいにしか思っていないと思います。
でも、タバコが精子の質を下がる また 受精した後にも影響が出る
タバコによる精子への影響についてはこれまでにも多くの論文が発表されており、
「禁煙」は妊娠を目指す上で男性にも女性にも大切な要素(治療の一環)です。
『タバコの影響:精子』
下記の論文は、「タバコ→ミトコンドリア膜電位低下→精子運動率低下、DNAダメージ増加→アポトーシス」という図式を明らかにしたものです。
RBM Online 2009
健常男子の精子にタバコの抽出物を暴露させ、運動率、ミトコンドリア膜電位、クロマチン、アポトーシスを分析しました。
タバコ抽出物は、精子の運動率を用量依存性、時間依存性に低下させ、精子の動力エネルギーであるミトコンドリア膜電位を低下させました。
今、話題のミトコンドリアの働きを弱めるんですね
また、タバコ抽出物は、用量依存性、時間依存性に精子クロマチンを凝縮させ、
アポトーシス(フォスファチジルセリン露出、DNAフラグメント)を生じました。
これらの効果は精子に悪影響を与える代表的な物質であるTNFαと同様でした。
タバコによって起こるDNAダメージは受精卵にも影響する事が判明しており、胎児の奇形率、癌、遺伝病のリスクを増大させます。
父親になろうという男性には禁煙を勧めます。
アポトーシスは 細胞の自殺 自らいらないものと処理をするという
恐ろしい事態です。
タバコは多くの疾患のリスク因子であることはよく知られています。
2002年のWHOの報告では、全世界の男性の1/3は喫煙者です。
タバコは4000を超える化学物質を含有し、30以上の突然変異因子や癌化因子を含みます。
それゆえ、卵子、精子、受精卵に悪影響をおよぼします。
タバコは
精子濃度を13-15%減少
運動率を10-17%減少
奇形率を13%増加します。
タバコは精液中の白血球を増加させ、活性酸素を増加させるため、酸化ストレスによるクロマチンやDNAへのダメージが増加します。
精子にはDNAを修復する力が備わっていないため、一度壊れた遺伝子は元には戻りません。
活性酸素は精子が前に進むための障害物
その障害物が増えてしまうという事にもなります。
父の喫煙と出生児の先天異常
父の喫煙は出生児の先天異常を引き起こします。
先天異常発生のしくみが、精子の遺伝子異常によるものか、妊婦の受動喫煙によるものかは結論が出ていません。
その両方の可能性もあります。二分脊椎〈せきつい〉は父の1日20本以上喫煙によって3.2倍に増え、皮膚色素異常は父の1日10本以上の喫煙によって3.9倍に増えます。
先天異常全体では、父の喫煙によってリスクが1.21倍に増えます。(*非喫煙に対して差が有意)
精子の質を高めるとという事は、仮に妊娠できても妊娠後の胎児に多大な影響を及ぼす
ある意味、妊娠ができない事より罪深い事だと思います。
精子DNAのベンゾピレン結合体
子のDNAに結合している発がん物質のベンゾピレンを染色して検出すると、検出頻度と濃度から算出したスコアが喫煙者で高く、スコアは精液のコチニン(ニコチンの体内代謝物)濃度と相関しました。
写真はベンゾピレンDNA結合体を染色した精子の顕微鏡写真で、喫煙者では、大多数の精子にベンゾピレン結合体が認められます。
こうして 目で見ると分かりやすいですね
『タバコの影響:卵子』
下記の論文は、「タバコ→テロメア短縮→遺伝子異常→異常卵→不妊、化学流産、流産」という図式を明らかにしたものです。
わずか妊娠前4週間(あるいは妊娠中4日間)のタバコの暴露で受精卵が明らかに異常になる事は衝撃的です。
また、下記のOct4はiPS細胞作成の際にも必要とされる因子の一つです。
つまり、多能性を持たせる意味があるのですが、ここがおかしくなってしまうとすれば大問題です。
Fertil Steril 2009
マウスをタバコやタバコの凝縮物に暴露(受精前4週間、受精後4日間、その両方)させ、胚発育やテロメアを分析しました。
タバコに暴露すると卵のフラグメンテションが増加し、受精の遅延が生じ、アポトーシスが増加し、Oct4発現が変化し、胚盤胞到達率が減少しました。
フラグメンテションの多い卵は活性酸素が増加していました。
この影響はタバコへの暴露の時間に比例していました。また、タバコに暴露すると、異常卵の頻度は増加し、テロメアは短縮しました。
米国では、およそ30%の女性がタバコを吸います。
喫煙する女性は、不妊症、妊娠中の異常、新生児合併症が増加し、不妊症のうち13%は喫煙によるといわれています。
タバコは4000を超える化学物質を含有し、血液を流れ、各臓器でその毒性を発揮します。
タバコの毒性物質は生殖細胞では血液中より濃度が高いため、生殖器官(精巣、卵巣)によく集積します。
喫煙は流産や化学流産を2倍の頻度で生じ、受精卵の質的低下や胎児奇形の発生頻度増加にも関連します。
また、喫煙は遺伝子の安定性を損ね、テロメアが短縮します。
テロメア短縮は加齢によっても生じるため、高齢の喫煙者はさらにリスクが高くなります。
テロメアについて:
染色体の先端に存在するキャップのようなもの。
螺旋状になっている大切な遺伝子情報を保護する役目がある。
人体にある数十兆の細胞は、絶えず分裂活動をすることで人間の生命を維持している。 が、細胞が分裂する際、テロメアも短くなってしまう。
テロメアは細胞分裂を行うたびに短縮しますから、「生命の回数券」とも呼ばれています。
テロメア短縮は酸化ストレスの蓄積と生物学的な加齢を示す指標になります。
妊婦の喫煙と妊娠合併症および周産期死亡
妊娠中の喫煙は、胎盤組織の壊死〈えし〉と出血をきたして早期剥〈はく〉離を起こし、胎盤の酸素欠乏から前置胎盤を起こし、卵膜の脆〈ぜい〉弱性を増して前期破水を起こします。
これらの結果、周産期における胎児、新生児の死亡頻度が増大します。
メカニズムはわかっていませんが、遅滞破水も増えます。
妊婦の喫煙は胎児胚〈はい〉の遺伝子や器官形成細胞にダメージを与え、出生児のさまざまな先天異常を誘発します。(*非喫煙に対して差が有意)
「タバコをやめなさい」 自分がしている行為を否定されるとムッときますよね。
でも、小さな卵や 精子は 「苦しんでいます。」
その小さな小さな 卵や精子が将来のかわいい我が子になるわけです。
子供なら 泣くことができますが
卵子や 精子は 叫びを上げる事ができません。
誰が その小さな命を守るのか よく考えてみてください。