『卵巣嚢腫からの茎捻転』になり手術をされた患者様について
『茎捻転 』という言葉は聞きなれないかもしれませんので今回は茎捻転について書きたいと思います。
『茎捻転』
卵巣は、下記のイラストのように子宮との間にある「卵巣固有じん帯」と、骨盤との間にある「骨盤漏斗じん帯(卵巣提索)」の二本のじん帯によって支えられるようにして存在しています。
それぞれのじん帯は、卵巣を支える支持組織としての役割のほか、卵巣への動・静脈や神経の通り道としての役割も担っています。
茎捻転というのはこの2本のじん帯がまとめて捻れることにより起こる病態を指し、静脈圧迫によるうっ血や神経圧迫による疼痛などが起こるようになります。
上記のイラストように卵巣に腫瘍ができると、腫瘍自体の重みによって次第に骨盤の底の方に向かって下がっていくようになります。この時先述の卵巣を支える二本のじん帯も引き延ばされるようになります。
このようにじん帯が引き延ばされると、卵巣は二本のじん帯の付け根の部分で「茎」を形成するような形となり、この部分を中心にねじれを起こしやすくなります。
このような理由で、卵巣がねじれを起こすことを「茎捻転」と呼びます。
下記のイラストを参照してください。
一般的には、腫瘍の大きさが直径5~6センチ以上になると茎捻転を起こす可能性があると考えられていますが、それ以下の大きさでもまれにねじれを起こすことはあります。
お腹に力を入れる、体位を変換するなどが契機となって発生しますが、この時ねじれが180度以上になるとじん帯を通る静脈が圧迫されて腫瘍にうっ血が生じ、この状態が長引くと炎症を起こして下腹部の疼痛のほかに発熱を見るようになります。
さらに放置すれば組織は壊死に陥り、周囲との癒着を起こしたり破裂、出血、化膿したりするようになります。
< 茎捻転を起こした卵巣腫瘍の写真 >
症状としては、急激に起こる下腹部の激痛として現れることが最も多いようですが、ねじれが急激に起こらず次第に捻れてくる場合には徐々に痛みが増す形となります。
炎症を起こすと発熱を伴うようになり、この場合虫垂炎とほぼ同様の症状を呈することになりますので鑑別が必要になります。
このほか、腹膜刺激症状として吐き気、嘔吐、便通異常などを伴うこともあります。
通常は開腹手術による治療が必要となり、捻転を起こした側の卵巣・卵管を摘出する必要があります。
急激に発生した茎捻転では緊急手術となることもしばしばです。