『射精直後の新鮮精子は卵子と出会っても受精できない』
これは本当です。 精子は精巣で作られ、精巣上体と輸精管を通過して射精に至りますが、
このときの精子の受精能力はまだ潜在的なもので、射精後の新鮮精子は卵子と出会っても受精することはできません。
通常、生理的な環境では、精子は卵子と出会う前に、女性生殖器官を運動して移動し卵管に到達しますので、
その間に最終的な受精能を獲得します(図①②)。
「精子の成熟」と言ってもよいかもしれません。 体外受精では、しばらく培養液の中で運動することで最終的な受精能を
獲得することができます。
最終的な受精能の獲得とは何かと言うと、「先体反応」を誘起する能力です。
先体とは、図の赤丸で示した精子の頭部の先端部分で、
透明帯表面でタイミングよく壊れることにより中に含まれる酵素が放出されます(図③)。
これが透明帯を溶かしますので、先体反応を完了した精子だけが透明帯を貫通することができます(図④)。
最終的に透明帯を貫通することに成功した精子は、卵細胞と融合して、受精の成立となります(図⑤)。
その後、精子と卵子が融合する時には、タイミングよく精子の運動性は消失していなければなりません。
たくさんの精子が卵子の周りにたどり着いても、受精できるのは先体反応の能力とタイミングに恵まれた
ラッキーな精子だけというわけです。
ちなみに生殖補助医療の顕微授精では、精子を不動化して直接卵子細胞質に注入するので、
先体反応を起こしていなくても受精できます。
引用:英ウィメンズクリニックブログより ニコチンと精子の先体反応の関係について調べた
研究をご紹介したいと思います。
In vitro effects of nicotine on human spermatozoa (実験環境においてニコチンがヒト精子に与える影響)
この論文は南アフリカのOyeyipo氏らが2013年のAndrologiaに発表した研究です。
この研究では19歳から26歳の12人の被験者から得られた精子に液体に溶かしたニコチンを加えて、
いくつかの濃度で精子の動きに与える影響を調べたものです。 評価項目としては、
精子運動自動解析装置を用いた精子の運動の質と、蛍光顕微鏡を用いた先体反応を見ています。
先体反応前と後の精子の状態
先体反応とは精子が卵子の表面に接近した時に起こる反応で、受精に欠かせないものですが、
卵子に接近していないのに先体反応が起きてしまうとその後の受精能力が失われてしまいます。
このような不必要な先体反応は化学物質や放射線などによって引き起こされるとされており、
妊娠力の低下を招くと考えられています。
この研究では19歳から26歳の12人の被験者から得られた精子に液体に溶かしたニコチンを加えて、
いくつかの濃度で精子の動きに与える影響を調べています。
評価項目は、精子運動自動解析装置を用いた精子の運動の質と、蛍光顕微鏡を用いた先体反応を見ています。
上の棒グラフは精液にニコチンを加えて30分後、60分後、120分後、180分後の精子の運動と先体反応を調べたものです。
これを見ると、ニコチン濃度が増える程、精子の運動の質は低下している事が分かります。
一方、先体反応についてはニコチン濃度が上昇するほどに反応が早まることが確認されています。
この研究ではさらに特殊な染色方法を用いて、精子の生存率を測定しています。
上の表を見ると、ニコチン濃度が高い程精子の生存率が低下していることが分かります。
ということで結論としては、
・ニコチン自体が精子の状態を悪化させる。
・ニコチン濃度が高いほどより悪影響は強い。 でした。
この実験は精子に直接ニコチンを添加しており、実際の喫煙の状況とは異なりますが、
ニコチンそのものが精子に影響を与えるという意味で重要な報告かと思います。
結論として・・・ 加熱式タバコも紙巻きたばこもニコチンの量はそれ程変わらないので
男性の喫煙での精子への影響は加熱式タバコも紙巻きタバコもどちらも同じ。
妊活中の男性は禁煙するべきです。